失敗は成功の元とは限らない
無駄になる失敗もある
「失敗は成功の元」という言葉があります。
失敗した経験を生かすことによって、次に挑戦するときにはもっと上手くいく。
だから失敗は無駄ではない。
という意味合いで使うことが多いと思います。
でも僕は、この言葉は必ずしも当てはまらないと思っています。
身も蓋もないことを言ってしまうと、世の中には、無駄になる失敗もあるのです。
無駄になる失敗とは、失敗し、損害が出て、そこから何も前向きなことを学ぶことができず、誰も得をしない失敗のことです。
僕は技術者として、自分や他人の失敗に数多く直面してきましたが、半分以上は、その「無駄になる失敗」であるように思います。
半分というのは、単に僕の肌感覚です。
失敗の質について
「失敗から学ぶ」ということは良いことです。
しかし、どのような失敗からでも学ぶことができる、と考えるのは、あまりにも楽観的だと思います。
例えば、複数のエンジニアがチームを組んで仕事をする際、よく「すり合わせ」という作業を行います。
すり合わせとは、技術者同士が、それぞれの分担に応じて進めた仕事の成果を持ち寄って、チームとしてひとつの成果にまとめ上げるための作業です。
自分の作業の結果によって、他メンバーの作業に影響がある場合、それを適切に伝えて反映してもらう必要があります。
また、自分と他メンバーの作業分担の境界線があいまいな場合、話し合って、分担の区分をはっきりしておく必要があります。
このようにメンバー間で話し合って調整することを「すり合わせ」というのです。
失敗に話を戻しましょう。
僕が技術者としてよく目撃してきた失敗のひとつに、「すり合わせ不足」というのがあります。
メンバー間でよく調整していなかった為に、それぞれは、自分の作業をこなしていたつもりであっても、チーム全体としては落ち度が出来てしまうようなケースです。
たいていの場合、技術者は自分の仕事を進めることで忙しいので、すり合わせることを後回しにしてしまいがちなのです。
このような失敗のあと、よく担当者は
「今後は、担当者間でよくすり合わせることを徹底しよう。」
というようなことを言います。
しかし、僕はこれが意味のある反省だとは思いません。
成功の元となる失敗とは言えないと思うのです。
その理由について述べたいと思います。
意味のある失敗をするには
上記の例が、意味のある失敗と言えない理由は簡単です。
それは、
「担当者間ですり合わせをしたほうがよい」というのが、はじめから分かっている『当たり前のこと』だからです。
つまり、
- チームで仕事を成し遂げるにはすり合わせが必要である
- メンバーは忙しくて、すり合わせがおろそかになりがちである
ということは、失敗する前から分かっていた事なのです。
つまり、上記の例で担当者が「学んだこと」とは、失敗する前から分かっていた事を再認識しただけなのです。
つまり、ほとんど新たな価値がないと言っても過言ではありません。
では、どのようにすれば、失敗が意味を持つのでしょうか。
無駄になる失敗と無駄にならない失敗には、明確な差があります
それは、失敗しないための具体的な対策を事前に実施したかどうかということです。
先ほどの例にあてはめて考えてみましょう。
メンバーが忙しすぎて、集まってすり合わせる時間がなかなかとれないということがはじめから分かっていたのであれば、プロジェクトを開始した時点で「では、どのようにしたらすり合わせが出来るか」を具体的に考えるべきなのです。
例えば、あくまで一例ですが、クラウドで電子データを共有する仕組みをはじめから作っておくという方法があると思います。
もちろん、情報をただ共有したからといって、十分なすり合わせができるとは限りません。
データをどのように運用して、必要な伝達事項をどのように共有するか、というルールを、あらかじめ綿密に練っておくのです。
つまり、考えられる失敗に対して、あらかじめ対策を立てるわけです。
もちろん、このような対策を立てたとしても、失敗が起きる可能性はあります。
技術者の仕事は、常に不確定要素との戦いですから、外部要因によって失敗が起こることは往々にしてあります。
しかし、前述のように十分に対策を立てた上での失敗であれば、次のように具体的な反省をすることができます。
「クラウドで情報共有をするルールの、どの部分が要改善か?」
「クラウド上で伝達するべき事項のリストに欠落があったか?」
このような失敗こそ、「意味のある失敗」です。
次の仕事で、失敗する可能性を減らす為の、具体的で、しかも新しい知見を得ることが出来るからです。
ここで得た知見をもとに、より洗練された運用ルールを作ることができれば
今後取り組む別の仕事でも、それを生かすことができます。
つまり、失敗を成功の元にするためには、あらかじめ、失敗を想定して対策しておくことが不可欠なのです。
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