技術者は誰の為に仕事をするのか
僕らは誰の為に仕事をするのでしょうか?
- 自分の為。自分の使命や誇りを全うするため。
- 家族の為。家族を養い守るため。
- 会社の為。雇用主である会社の信頼を守り、利益をもたらすため。
- 社会の為。技術力によって人々に安心や安全をもたらすため。
- 業界の為。専門技術を進歩させることによって、分野の発展に寄与するため。
では、どれが『一番』でしょうか。
「優先順位なんか付けられない。どれも大事。」
というのが正直なところではないでしょうか。
少なくとも僕であれば、そう答えます。
しかし、技術者は時として、優先順位をつけることを迫られます。
例をあげて説明しましょう
<例1>
例えば僕が、プラント設備の施工エンジニアだったと仮定します。
ある時会社から、『治安の悪い地帯での巨大プラント構築』を任されたとします。
希少な資源を産出する為のプラントで、プロジェクトが成功した暁には非常に大きな利益と名誉が約束されます。
「自分の使命や誇りの為」「会社の利益の為」を考えれば、任務を請け負う、というのが答えになります。
一方で、このプロジェクトを背負う場合、治安の悪い地域に長期間滞在する
ことになり、「もう家族と会えないかもしれない」という事が頭をよぎります。
家族からも反対されるかもしれません。
このような状況になったとき、僕は必ず一つの答えを出さないといけないのです。
もしあなたなら、どのようにしますか?
<例2>
例えば僕が、自動車の安全装置を設計するエンジニアだったとします。
技術者として、使用者の安全性を考慮すると、どうしても高度な安全装置が必要であると判断しています。
しかし一方で、あなたが設計した安全装置は高いコストがかかります。
このままでは原価が上がってしまい、自動車の売り上げに影響します。
会社からの指示は「安全装置の採用中止。」
僕は葛藤します。
安全装置を採用しなかった場合の危険性は僕だけが理解しています。
しかし、これ以上会社の指示に対して意見をすると、解雇される可能性があると考えています。
「社会の為」を考えれば、僕は最後まで安全装置の採用を主張するべきだと考えるでしょう。
しかし、「会社の為」には、指示に従うのが答えとなります。
さらに、「家族の為」には給料を稼がないといけません。
解雇されてしまっては、それすら失うことになるのです。
この場合も、短時間で少なくともどちらかを選ばなくてはならないのです。
技術者の宿命
技術者はこのような葛藤から完全に逃げることはできません。
なぜならば、身に付けている高い技術が、社会や多くの人に影響を及ぼす可能性があるからです。
上記の例で挙げたような「究極の選択」に対して、いまここで、どちらが正解、という答えを示すことはできません。
むしろ、今回のケース単体での「答え」を示すということには、意味がありません。
与えられた条件は、人によって無数のバリエーションがあります。
また、判断のもとになる「倫理」は自らの心の中にしかありません。
しかし、答えの出ない問題に対処するときの、自分の「倫理」について
いまのうちから意識しておくだけで、いざというときの判断の精度を上げることが出来ると僕は思っています。
入り組んだ状況を紐解き、クリアにすることが技術者としての責務です。
情緒に流されて、判断のバランスをくずしてはいけないです。
例えば、「会社に対する反骨心」「周囲の人間や知人に対する虚栄心」「正確な評価を下すことへの恐怖心」というような感情も、判断を鈍らせます。
葛藤に対処する為の思考法は、技術者にとって重要なスキルです。
ジレンマは避けられません。
しかし、ジレンマの正体を解体し、自分の倫理と照らし合わせる訓練は技術者として生き延びる為に有効だと思うのです。
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